しあわせチーズ工房 本間幸雄さん:JCA2020グランプリ授賞者インタビュー
photo: しあわせチーズ工房
Japan Cheese Awards 2020でグランプリを授賞された「幸(さち)」を製造している、しあわせチーズ工房の本間幸雄(ほんま・さちお)さんにお話を伺いました。
CPA:
この度はグランプリの授賞、おめでとうございます。
「幸」はJapan Cheese Awards(以下、JCA)の第1回(2014年)から毎回出品されていて第3回(2016年)には最優秀部門賞(金賞)を授賞されていますが、今回はどのような意気込みで出品されたのでしょうか。
本間さん(以下、敬称略):
ありがとうございます。
「幸」はこの工房ではフラッグシップ的なチーズで、工房を始めた時から作り続けている加熱圧搾タイプのチーズです。
2年前のコンクールでは銅賞だったのですが、その時にもらったフィードバックの文面を読んで、「次回は(もっと良い結果を出せるように)なんとかしてやろう!」という気持ちが強くなり、この2年間(特に出品前のチーズを選ぶとき)はしっかりと対策を練って出品しました。
photo: CPA
CPA:
狙って出品をしてきたのですね。
そして今回は加熱圧搾6ヶ月以上部門での最優秀部門賞(金賞)、そしてグランプリを授賞されました。
本間:
とは言っても、毎回こうしてコンクールに出品するのは、賞を獲ることが最大の目的というわけではないんです。
このコンクールの審査は重箱の隅をつつく・・・じゃないけれど(笑)、外観や生地の質感など細かいところまでかなりシビアに評価されることが、自分の仕事に対して評価をされていると思うんです。
自分自身の仕事に対する「確認作業」のためにコンクールに参加していると思っています。
CPA:
本間さんは「しあわせチーズ工房」を立ち上げるまでは、共働学舎新得農場チーズ工房で製造をされていらっしゃったのですよね。
本間:
はい、5年間共働学舎にいました。
5年のうち2年は牛の飼育のセクションに携わっていました。
CPA:
そうだったんですね。それはどうしてですか?
本間:
最初はチーズ工房でチーズを作っていましたが、放牧の牛のミルク(放牧ミルク)を使ったチーズ作りを将来していきたいと思っていたので、それならまずは酪農の現場の仕事も知っておきたいと思ったからです。
共働学舎を退職してチーズ工房を立ち上げるまでの2年間は、足寄で放牧酪農をされている「ありがとう牧場」の吉川さんのところで酪農実習をしていました。
photo: CPA
CPA:
しあわせチーズ工房のチーズの原料乳は、ありがとう牧場の放牧ミルクだそうですね。
本間:
はい。「幸」は放牧期間中の5月から11月までのミルクでしか仕込まないのです。
放牧ミルクは、季節によっても、放牧しているエリアの違いから日によっても、乳質が違ってきます。同じように作っているつもりでも、凝固の状態やかかる時間などが微妙に違ってくるので、その違いに寄り添って作らなければなりません。時期によっても出来上がるチーズの味が変わります。
ハチミツの風味がしたり、また別の時期のものはナッツの風味が支配的だったりと同じように作っていても違う風味を持つチーズになるのが、放牧ミルクで作るチーズの魅力です。大変で難しいことではありますが・・・。
photo: CPA
CPA:
「幸」の特徴は、放牧をして青草を食べて育った牛のミルクから作っているということですね?
本間:
はい、そのミルクをヨーロッパの伝統の作りをベースとした製法で作っています。
モデルにしているチーズは、グリュイエールやコンテなどの大型のチーズですし、そもそもナチュラルチーズはヨーロッパの古くから続く文化ですから、それらのチーズの製法のエッセンスを取り入れたいと思っています。
つまり「幸」は、原料は足寄のミルク、そして作りはヨーロッパの伝統製法で、です。
CPA:
作り方でヨーロッパの伝統チーズの参考にしていることはありますか?
本間:
これまで何度もフランスやスイスのチーズ作りの現場を訪ねてきましたが、特にスイスのグリュイエール・アルパージュの小さな工房で見たチーズ作りは参考にしています。基本的な道具(例えば銅鍋を使うとか)であるとか、チーズ作りの動線とか。チーズ作りにおいて理にかなっていることがたくさんあります。
さすがにひとつが40kgのチーズを製造するのは体力的に大変なので「幸」はひとつ22kgと小さなサイズとなっています。
photo: しあわせチーズ工房
CPA:
22kgは十分に大きいですよ!
これから新たに作ってみたいチーズはありますか?
本間:
長期熟成タイプの加熱圧搾のチーズを作っていきたいです。「幸」の作りとは違う新たなハードタイプのチーズにトライしたいと思っています。
そしてもっと効率的な製造をして生産量を増やし、そしてクオリティもさらに上げていきたいですね。
■インタビューを終えて
良くも悪くもコンクールで最優秀賞(JCAの場合はグランプリ)になったチーズは、しばらくの間注文が殺到するとのこと。小さな工房で長い時間熟成をしてようやく出荷される「幸」の在庫が底をついてしまわないか、と心配するのはこのチーズを以前からひいきにしているチーズファンだと思います。
工房のキャパは急には大きくできないにしても、チーズに使うありがとう牧場のミルクはまだ余裕があるとのことなので、本間さんが最後におっしゃっているように効率化をすることによって製造量が増えることを切に望みます。
そして新たな長期熟成(2年以上)のハードチーズの製造も期待をして楽しみに待っていたいと思いました。
photo: しあわせチーズ工房
photo: CPA
0コメント